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QIQBセミナー: 弱測定と弱値:量子力学の新しいアプローチ

講師: 横田一広 大阪大学理学研究科 特任研究員
分野: 弱い測定、弱値
題目: 弱測定と弱値:量子力学の新しいアプローチ
要旨: 

弱測定(weak measurement)は、1988 年にアハラノフ(Y. Aharonov)たちによって提唱れた、量子系の時間発展を乱さずに物理量を得る測定手法である。弱測定の結果、測定器がアンサンブル平均値として指し示す値は、弱値(weak value)と呼ばれており、特に、測定対象系について特定の始状態と終状態を選ぶという、いわゆる事前事後選択(pre-postselection)下では、弱値は固有値の範囲を逸脱した特異な値を取り得る。弱測定や弱値は近年、その信号増幅作用を利用した高感度測定などの応用が期待されているとともに、量子基礎に対する新しいアプローチとしても注目されている。本発表では、弱測定と弱値を紹介し、我々が今まで行ってきた研究結果について報告する。我々の一義的な研究目的は、弱値の理解を深化するところにあるが、それを3つのテーマに分けて議論する。1つ目のテーマは、量子パラドックスの観測である。実際に我々が行った「弱測定によるハーディのパラドックスの観測実験」や、近年発表した「同時弱測定による鳩の巣原理の破れの直接観測に向けた実験提案」について報告する。2つ目の課題として、弱値が物理量として機能する事を示す為に、ディラック方程式と弱値の発現について議論する。具体的には、ディラック粒子が織りなす量子現象として「階段型ポテンシャルによる対生成」と「単層グラフェンの電気輸送」と取り上げ、これらの現象が弱値を使って定性的かつ定量的に説明できることを示す。最後に、「正と負の弱値が引き起こす対称的な偏光回転操作」や「負の弱値による光子損失の回避」の検証実験を紹介する。これは、弱値が物理的操作を記述する指標としていかに有益であるかを示す例であり、弱値や弱測定の量子情報技術への応用の可能性を示すものである。